釣り上げた時は臭わない魚のニオイ、なぜ発生するのか

魚を釣り上げた時は臭わないが、帰ってクーラーボックスを開けると生臭いニオイが…
料理するつもりでもそのまま捨ててしまいそうになりますが、その原因は何なのか徹底解説!

「腐る」を科学する:魚の生臭い臭いの原因とは

魚を釣り上げた後、家に帰ってみると強烈なニオイで食べる気をなくした…
そんな経験は釣り人ならだれしもがあるはず.

普段感じる嫌な匂いとは別物の魚の生臭さはいったい何物なのでしょうか?

実は、臭いにおいにもいくつか種類があります。一番身近なのは、おならの臭いに代表されるアンモニア臭でしょう。

魚のニオイは、実は「トリメチルアミン」と呼ばれるもので、普段の生活では馴染みのないものになります。なぜならゴミが腐ってもトリメチルアミンは発生しないため、普段の生活で臭うこともない事から、より一層きつく感じてしまいます。

 魚は鮮度が落ちるとこの「トリメチルアミン」 (CH3)3N と呼ばれる物質が多くなって来ます。これは魚の肉質、すなわち、たんぱく質が変化を起こしてくるために生成する物質で、たんぱく質の成分である「トリメチルオキサイド(トリメチルアミンのもととなるもの)」に「水素」(H) 「炭素」(C) が結合して生まれます。

トリメチルアミンオキシドからの還元反応
トリメチルアミンオキシドからの還元反応

この「トリメチルアミン」が多くなると、たんぱく質が分解して「身くずれ」「ドリップ」「変色」等 を起こし最後に細菌のエサになって「腐敗」します。

学術分野では、「トリメチルアミン」の保有量で、魚の鮮度を測るという実験方法もあるため、鮮度とトリメチルアニンには深い関係があると言っても過言ではないでしょう

海水魚にトリメチルアミンが含まれるのはなぜ?

そもそも、淡水魚は海水魚に比べてニオイがほとんどしないというのはご存知でしょうか

海の魚が生臭くなるのには、実は海水の塩分濃度が関係しています。
陸上に暮らす動物でも海のなかを泳ぐ魚でも、細胞内の塩分濃度は約0.9%程度といわれています。一方、海水の塩分濃度は約3%もあります。

細胞のなかと外で溶け込んでいる成分の濃度が異なる場合、「浸透圧」によって薄い方から濃い方へと水分が浸み出し、濃度を等しくしようとする力がはたらきます。野菜に塩を振ると水分が出てくるのと同じ原理です。

このままでは、海の生き物は細胞から水分が絞り出され、キャベツの塩もみのようにしなびてしまいますよね。それを防ぐため、海で泳ぐ魚は様々なアミノ酸トリメチルアミンオキシドといった成分を細胞内に溜め込むことによって、細胞内の浸透圧と、海水の浸透圧とが釣り合うようにしています。

もちろん、排水溝などにすむ淡水魚は排水の臭いが身につくので、その臭いはしてしまいますが、トリメチルアミンがほとんど体内にないため、臭いがしないというわけです。

なぜ、氷漬けは魚のニオイの抑臭に有効なのか?

これまで紹介したトリメチルアミンですが、魚の表皮や筋肉に含まれるアミノ酸やトリメチルアミンオキシドが変換することで、ニオイが発生します。

この化学変化は、温度が高いほど進行しやすいものになります。夏場よく食べ物が痛むのと同じです。そのため、できるかぎり魚の表皮筋肉内蔵の部分を冷やす事が重要となります。

実は、イケス育ちの魚はニオイやすい?その真相は

釣り人は、言わずもがな魚好きの人が多いものですが、実は、イケスで育った魚はニオイやすいというのはご存知でしょうか

というのも、イケスの中では、餌の食べ残しや魚の糞尿が常に発生します。それらのタンパク質が水の中に溶け込み、微生物やバクテリアが発生しやすい環境になってしまいます。
この微生物らがタンパク質を生分解する際に、アンモニアが発生し、同時に酸素濃度が下がりだすのです。ちなみにですが、酸素濃度が下がりすぎると窒息して死んでしまうという事態も起こってしまいます。

このような環境で育った魚は、身の中にアンモニアを保有しやすく、また酸素が少ない環境だったので、筋肉も細胞レベルですでに弱っていることから、トリメチルアミンを多く含んでしまうのです。よく、イケス育ちはイキが悪い魚だと呼ばれますが、実は育つ環境にも問題があったのです。

養殖業では、魚にストレスを与えないことが重要とされますが、ストレス魚の鮮度(トリメチルアミンの量)に影響するというのは、これらのことが背景にあります。

イケスの中の魚の育ち方
イケスの中でのトリメチルアミンの発生

魚料理で酒やみりんを使うのには理由があった

日本料理などでは、よく魚を調理する際、料理酒やみりんを使うことがあります。有名なところで言うと、魚の下ごしらえをする際、みりんに魚をつけ、加熱するなどがあります。

その理由は、トリメチルアミンは加熱すると飛散しやすい揮発性の高い物質です。
一方、清酒や本みりんに含まれるアルコールには、蒸発する時に他のにおい成分も同時に揮発させる「共沸効果」があります。
清酒や本みりんを加えて調理すると、トリメチルアミン(TMA)の不快なにおいはより除去されやすくなるのです。

料理酒による下ごしらえ
酒による魚の下ごしらえとトリメチルアニン(TMA)の除去

魚にニオイを消すには?

以上、魚のニオイの原因であるトリメチルアミンについて、その保有理由とニオイ対策について述べてきました!

トリメチルアミンは通常の石けんでは落ちなく、石鹸の匂いと混ざり合うことで恐ろしい匂いになってしまいます。

なので、魚をさばいた後やまな板などには、「トリメチルアミン」をなくす釣り用の石けんが必要です!

参考文献

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